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「しわ寄せ」に喘ぐミドル男性の悲哀
これでようやく正社員も含めて賃金が上昇に転じる素地が
整ったかと言えば、現実はそう単純ではない。
確かに、有効求人倍率が調査の対象としている「現在職探しをしている」
学生や失業者の待遇は、過去よりも改善しているであろうことは
疑いの余地は少ない。
また、非正規から正規雇用へ職制が変更された労働者の多くが
処遇の改善を受けているとみられる。
しかし労働者の給与改善は、企業側からみれば
収益圧迫要因でもある。
このコスト増加を相殺するために企業が何を考えるか。
それは残念ながら、従来以上の「昇給速度の鈍化」と
「働き方改革の美名を借りて行われる残業代削減」だ。
この目論見が実現すれば、新規に正規社員となる層
(新卒や非正規雇用からの正規化層)における所得の上昇と
セットで、既存の正規社員の給与総額の抑制が当面続く
可能性も高いということになる。
そしてこのような企業行動は、何ら目新しいものではない。
例えば、日本の労働者の年収カーブを生まれ年別に
確認したものであるが、「初任給が引き上げられる」一方で
「40代~50代の給与は押し下げられる」ことに伴う
年収カーブのフラット化傾向が続いていることが確認できる。
とりわけ2000年代後半から顕著な動きとなっているが
40代労働者のうち「部長」「課長」の割合の低下が続いている。
50代労働者でも同様の傾向が確認できる。
すなわち、企業は40代・50代雇用者の昇進を遅らせる
昇進できる人数を減らす、といった取り組みを
行っている可能性がある。
なお、40代には団塊ジュニア世代が、50代には
バブル入社世代が含まれるため、人件費全体に占める割合も大きい。
企業は、ボリュームゾーンを形成する雇用者の昇進を遅らせることで
人件費の削減を図っていると言えそうだ。
そして同様の現象が今後も発生する蓋然性は
無視できないだろう。
「男はつらいよ」では何も解決しないだからと言って「企業=悪」「40代~50代社員=被害者」という
単純な構図で企業を糾弾することが正しいとは限らない。
賃金は労働者の限界的な生産性で規定されるという恒等式が
標準的な経済学の基本命題である。
つまり、企業の売上や収益に貢献した度合いで
賃金は決定されるということだ。
(もちろんブラック企業のような「市場の失敗」が発生する
ケースではこの限りではないが)
「終身雇用」や「年功序列・年功賃金」を盾にしてスキルを
磨いてこなかったツケが回ってきているのだとすれば
それは自業自得でしかない。
「男はつらいよ」「昔は良かった」と嘆くのは簡単だが
今までが甘すぎただけだと言われればそれまでだ。
自助努力でスキルを磨いて収益貢献するしか解決法はない。
他方で、日本固有の要因として
「労働市場の流動性が低い(転職市場が小さい)」が故に
収益貢献度に見合わない不条理な賃金抑制を強いられても
労働者は会社に従わざるを得ないという側面も無視できない。
結局のところ、持続的に賃金が上昇し続けるために必要なことは
「自助努力による生産性向上が賃金上昇という形で実を結ぶ
(=同一労働同一賃金)」環境を整備することだ。
そのためには生産性が低いにもかかわらず、高い賃金を
受け取ってきた労働者には退出してもらう必要があり
この意味で解雇規制の緩和は急務であろう。
同時に、高い生産性を持つ労働者が正当な賃金を受け取れるよう
企業の労務管理への監視を徹底するとともに
転職市場の流動性を高める、あるいは副業を推奨する
といった政労使の包括的な取り組みが求められる。
小林俊介(こばやし・しゅんすけ)大和総研 エコノミスト。
2007年東京大学経済学部卒業、大和総研入社。
11年より海外大学院派遣留学。
米コロンビア大学・英ロンドンスクールオブエコノミクスより修士号取得。
日本経済・世界経済担当。
各誌のエコノミストランキングにて17年第4位。
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