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未踏の地を追い求めた男
壊血病は、体だけでなく精神にもダメージを与えるそうですね。
脳の神経構造が破壊されるので、精神に障害をきたします。
ビタミンC不足が脳の酸化ストレスを引き起こし
神経伝達物質の働きを阻害して、幻覚を見たり
現実と区別がつかないほど鮮明な夢を見るようになったりします。
幻覚や夢に現れるのは、体が必要としているもの
主に食べ物です。
そのため、目が覚めたり、幻覚が消えたりした後
実際には食べ物がないとわかると非常なショックを受け
打ちのめされてしまうのです。
18世紀の人々は、壊血病には陸地を思い出させてくれる
土のにおいをかぐことが効果的だと考えていました。
そこで、故郷の土を船に積み込み、誰かが航海中に
壊血病にかかると、病人を箱に入れて上から土を振りかける
「土浴」を実践していました。
これで病気が治ると信じていたのです。
クック船長はレモン汁や新鮮な野菜と果物でビタミンCを補給し
船乗りたちの壊血病を予防したと言われていますが
あなたは本の中で異論を唱えていますね。
クック船長は、壊血病を克服した英雄とされていますが
厳密に言えば正しくはありません。
彼は、航海の間、できる限りのことをして壊血病の予防に
努めたことは確かです。
機会があるごとに陸に立ち寄って新鮮な野菜を調達したり
住民から新鮮な肉や魚を手に入れたりしました。
船の中は暖かく、清潔で乾燥した状態を保っていました。
壊血病を引き起こす要因とされる劣悪な環境を最小限に
抑える努力をしたのです。
けれども、実際には彼が指揮した航海のすべてで
壊血病患者が出ているのです。
特に第二次航海はひどいものでした。
また、航海から帰還したクック船長は、壊血病予防には
濃縮した麦汁が大変効果的だという誤った情報を流してしまいます。
壊血病を治すかは不明であるとした点では正直だったと思いますが
「壊血病の予防と治療には、柑橘類ではなく濃縮麦汁」
という医師の言葉を信じて、クック船長は実際には
全く効果のないものを推奨してしまったのです。
航海での医学に詳しい偉大な歴史家ジャック・コルター氏と
クリストファー・ロイド氏は、クックのやったことは偉業でも
何でもないと語っています。
壊血病の予防にようやく成功したのは、1795年のことでした。
ナポレオン戦争を戦っていた英海軍のギルバート・ブレイン卿が
乗組員たちにかんきつ類を配ります。
クックは、多くの偉業を成し遂げた人物ではありますが
壊血病に関してはかえって医学の進歩を妨げてしまったと言えるでしょう。
壊血病は文学作品のテーマにもなってきました。
最も有名なのは、英国のロマン派詩人サミュエル・テイラー・コールリッジの
「老水夫行」という詩でしょう。
ほかにも『白鯨』などにも登場します。
印象的な作品について教えてください。
「老水夫行」の一節が私にとっては最も印象的です。
老水夫が船縁から海を見渡していて、水へビを目にします。
彼の目には、その姿は信じられないほど
不快なものに映りました。
水夫は恐ろしさで身動きが取れなくなります。
しかし、そのすぐ後で、同じ水へビを素晴らしい生き物だと
考えるようになります。
妖精のように感じられたのです。
そして、ヘビに愛情を抱くようになります。
恐怖から歓喜への感情の変化こそが壊血病患者の特徴で
この病を扱った文学作品の根幹をなすものだと思います。
窮乏や無知、悪臭という悲惨な状況にいるとき、突如として
自分を救い出してくれることが起きます。
たとえば、食べ物や飲み物が手に入る。
その途端に、抑えきれないほどの喜びが
湧いてくるということです。
これは壊血病患者の体験の一面でしかありません。
日誌や文学作品に記されている別の面は、自分の体験を
伝えきれないという問題です。
いくら話しても理解してもらえない。孤独感は
並大抵のものではなかったでしょう。
船には何百人もの船乗りがいます。
でも、患者たちは一人ぼっちだと感じていました。
誰にも理解してもらえず
孤独を抱えていたのです。
【関連情報】
壊血病とビタミンCの歴史―「権威主義」と「思いこみ」の科学史
地図で見るイギリスの歴史―大航海時代から産業革命まで
壊血病 医学の謎に挑んだ男たち
キャプテン・クック―世紀の大航海者
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