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無資源国日本、本領発揮の時…
19世紀は大英帝国の時代だった。
ブリテン島で豊富に採れた良質な石炭を背景に、鉄を造り、外燃機関である
蒸気機関で推進する高性能な戦艦が建造された。
ところが19世紀末に産業化された石油には、同じ体積に
積み込める石炭の約2倍のカロリーがあった。
戦艦の航続距離は倍になり、船員は石炭積み込みの重労働から
解放されて、燃料補給はパイプをつなぐだけの簡単なものになった。
英国海軍としては戦艦群の燃料を石炭から石油へと
変換しなければならないが、1つ大きな問題があった。
当時、油田は米国とロシアにしかなく、広大な大英帝国内でも
石油は産出されなかったことだ。
戦艦群の燃料転換の決断を下したのは、当時の海軍卿
チャーチルだった。
第一次世界大戦の直前である。
英国は開発されつつあった中東油田を
確保しなければならなかった。
世にいうオスマン・トルコ帝国の不条理な分割、英仏による
「サイクス=ピコ条約」はほぼ現代の中東の国境線を定めたが
これには英国海軍による燃料確保の目的があったのだ。
この頃、同時に発達したのが、ガソリンを燃料とする内燃機関
(エンジン)を積む自動車である。
現在、石油消費量の約7割が自動車である。
環境汚染と限りある資源の消費抑制のために、自動車は
燃料消費について対策を迫られている。
日本はエンジンとモーターを併用するハイブリッド車(HV)で
当面を乗り切り、水素を燃料とした燃料電池自動車(FCV)や
電気自動車(EV)へと移行する作戦だ。
一方、欧州では燃料効率の良いディーゼル車に注目し
現在、乗用車販売の50%を超えている。
ところが一昨年のドイツの自動車大手フォルクスワーゲン(VW)の
ディーゼル車排ガス不正計測以降、流れが変わった。
昨年9月のパリ・モーターショー以降は欧州主力メーカーの間で
EV普及に向け脱内燃機関の動きが顕著になった。
7月初旬、フランスのユロ・エコロジー大臣(環境連帯移行大臣)は
2040年までに二酸化炭素(CO2)の排出削減のため
国内におけるガソリン車およびディーゼル車の販売を禁止すると発表し
英国もそれに続いた。
スウェーデンの高級自動車メーカー、ボルボは2年間で
EVとHV以外の製造をやめると宣言した。
中国では環境汚染対策に加え、産業として参入障壁の高い内燃機関を
使用した自動車よりも、水平分業が可能で参入しやすいEVを推進する
インセンティブが強い。
現実に各種の優遇措置によりEVは中国で一番売れている。
最新予測ではEVは40年に54%のシェアになるとされているが
技術革新のテンポが速いため、シェア予測は年々増加している。
当面は内燃機関との経済性の競争になるだろうが、今後、世界の
EV化の動きが加速することは間違いない。
21世紀は石油の時代が終わり、この分野でも新しい地政学上の
変動が見え始めているのかもしれない。
そういう意味では、トランプ米政権による地球温暖化対策の
国際的枠組み「パリ協定」離脱は、米国が栄華を誇った
石油全盛時代への単なる懐古趣味なのかもしれない。
わが国においては、主力輸出品である自動車産業の対応が
今後の国家の浮沈を握る可能性が高い。
今こそ資源を持たざる国の本領発揮を願いたい。
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